【スペシャルコラム】雪まつりとインバウンド、その「熱」と「摩擦」を構造で読む


まえがき

断罪ではなく、「設計図」として読む

このコラムの狙いは、雪まつり期に増幅するインバウンドの“熱”と、すすきの周辺で可視化されやすい“摩擦”を、誰かの善悪ではなく「構造」として読み解くことにある。感情で断罪するのではなく、数字・制度・運用・現場の負荷が、どう噛み合い、どこでズレるのかを確かめたい。

札幌は、年間5mの降雪がありながら190万人超の人口を抱える大都市という、世界的にも稀な前提条件の上に成立している。(参考文献: 文献[1])この街では、雪は制約であると同時に資源でもあり、その両面を最も短期間で強く露出させる装置が「さっぽろ雪まつり」だ。第74回(2024年)は会期中に2,389,000人が来場したと整理されており、わずか数日間で日常の人口規模を上回る人流が特定エリアへ集中する。(参考文献: 文献[2][3])熱量が高いということは、経済効果が大きいということでもあるが、同時に街の“受け入れ容量”を試すという意味でもある。

一方で、回復の勢いは札幌単体の現象ではない。全国の訪日外客数も増加し、札幌は「北海道観光のゲートウェイ(玄関口)」として、その波を受け止める役割を担う。(参考文献: 文献[1][6])つまり、札幌には「期待」と「負荷」が同時に集積しやすい構造がある。ここで摩擦が生まれるとき、原因は単純なマナーの問題ではなく、前提(言語・ルール・導線・料金感覚など)が共有されないことによって起きる“当たり前の齟齬”として現れる。

このコラムは、「観光は良い/悪い」「客が悪い/店が悪い」という短絡を避ける。代わりに、熱がどこに溜まり、どこで詰まり、どのタイミングで摩擦として立ち上がるのかを、資料に基づいて淡々と描く。読後に残したいのは、誰かを責める結論ではなく、「どこを更新すればズレが減るか」という見取り図だ。

いま見えている摩擦は、おそらく“氷山の一角”にすぎない。

第1章:雪の都、190万人の日常を揺らす非日常の熱量

札幌という街は、前提条件からして少し“無茶”が効いています。年間5mを超える降雪がある一方で、190万人を超える人口を抱える大都市として成立している。(参考文献1)
ここで重要なのは、「雪が降る街」ではなく、「雪が降ることを織り込んだ都市運用が、日常として回っている街」だという点です。雪は本来、移動・滞留・安全確保といった都市活動の“制約”になり得る。けれど札幌は、その制約を抱えたまま都市機能を維持し、なお観光資源へ変換してきた。(参考文献1)この構造を前提にすると、冬のイベントは単なる季節の風物詩では終わりません。日常の上に、短期間だけ“別の都市”が重なる──そういう現象になります。

その象徴が、さっぽろ雪まつりです。第74回(2024年)の来場者数は2,389,000人と示されています。(参考文献2)
この数字は、単に「賑わった」で片づけるには重い。札幌の人口規模(190万人超)と照らすと、短期間に“都市の規模そのものに匹敵する人の流れ”が、特定エリアへ集中的に発生する局面があることを意味します。(参考文献1)(参考文献2)しかも来場者数については、資料間で表記差があり得ることが示唆されているため、単一の数字に過剰な確信を置かず、「桁として巨大な集中が起きる」という構造で捉えるのが安全です。(参考文献2)(参考文献3)

集中が起きると、街は“祝祭の熱”で潤います。ですが同時に、都市は短期的な超負荷にさらされる。これは誰かのマナーの話ではなく、構造の話です。人が増えれば、経済効果が増えるのと同じ空間で、案内の需要も、導線の詰まりも、細部のズレも増えやすい。ここで起きるのは「良いことの副作用」ではなく、都市が混雑と接点増にどう耐えるかという運用課題です。

札幌市は平成30年(2018年)に内閣府から「SDGs未来都市」に選定されている。(参考文献4)
ただ、“持続可能”はスローガンとして掲げれば自動で達成される言葉ではありません。持続可能性は、むしろピーク時にこそ試される。短期間に人が集中する局面がある以上、日常と非日常の両方を壊さない設計が必要になる。(参考文献4)この視点に立つと、雪まつりが回っているという事実は、単なる集客力ではなく「維持の仕組みが組み込まれている」ことも含んでいます。

実際、雪まつりの運用にはボランティアの配置など、安全確保や現場対応を前提にした支えが組み込まれている。(参考文献2)
観光は“来る側”の熱量だけで成立しない。受け入れる側の体制と、市民生活の許容量と、都市機能の調整が噛み合って初めて成立します。札幌の冬の「当たり前」は、自然・都市機能・受け入れ側の許容量がギリギリで釣り合って成立している、と言い換えられる。(参考文献1)(参考文献2)

そして、この均衡が揺れたときに生まれるのは、誰かの悪意ではなく、都市の“摩擦”だ。
次章では、その摩擦が「観光の回復」という数字と一緒に立ち上がってくる構造──つまり、玄関口としての札幌が背負う“重圧”に焦点を移します。

第2章:「回復」という数字の裏側にある、ゲートウェイの重圧

近年の札幌観光の勢いは、統計としてはっきり見えます。2023年度の来札観光客数は1,454万人(前年度比10.9%増)に達し、回復が進んだことが確認できます。(参考文献2)また、日本全体の訪日外国人旅行者数は2024年に3,686万9,900人(約3,687万人)となり、過去最高を更新しました。(参考文献5)

この「全国の回復」が札幌にどう作用するかを考えるとき、札幌が道内周遊の拠点、すなわち「北海道観光のゲートウェイ/魅力のショーケース」と位置づけられている点が重要です。(参考文献1)旅行者の動線が集まりやすい構造ゆえに、街の華やかさと同時に、現場の窓口負荷も集積しやすい――ここに“重圧”の起点があります。(参考文献1)

実際、窓口での需要増は具体的な数字として表れています。観光案内所における外国人利用者数は、2022年度13,293人から2023年度35,138人へと急増しました。(参考文献2)一方で、札幌市経済観光局の観光・MICE推進部の職員数は、令和6年9月時点で36名と示されています。(参考文献2)ここで言いたいのは「人が足りない」と断ずることではありません。回復局面では、情報提供・誘導・調整の“量”が先に膨らみ、その後から体制や仕組みが追いつく、という順序になりやすいという事実です。(参考文献2)

だからこそ市の計画側は、精神論ではなく「仕組みの更新」を明確に掲げています。例えば、インバウンドに特化したWEBサイトやSNSでの情報発信強化、都心のまちづくりに合わせた観光案内所等の情報提供機能の整理・強化が示されています。(参考文献1)さらに、交通機関・施設等の多言語化キャッシュレス化など、受入環境の整備も主要な取組として整理されています。(参考文献1)計画のSWOTでも「二次交通に対する満足度の低さ」「外国人観光客受入環境の改善余地」「観光人材の不足」などが弱み・課題として挙げられており、回復の数字の裏側にある“運用の摩耗”を、行政自身が把握していることが読み取れます。(参考文献1)

回復は確かに街を潤します。(参考文献2)(参考文献5)
ただ、札幌がゲートウェイである以上、回復の恩恵と同じ速度で「窓口の圧」も届いてしまう。(参考文献1)(参考文献2)
この圧が、次章で扱うすすきのの“齟齬”へと形を変えていく流れを、私たちはいま、目撃しているのかもしれません。

――数字の回復が“体感の回復”と一致しないとき、摩擦はどこに現れるのか。次はその最前線へ進みます。

第3章:すすきのに集積する「当たり前の齟齬」

雪まつり期の熱量が街の深部へ流れ込むとき、摩擦が最も露出しやすい場所の一つが、歓楽街・すすきのです。(参考文献1)ここで起きる違和感は、誰かの善悪だけで説明しきれない——むしろ「公共空間の使い方」「期待される振る舞い」の前提が、短時間で入れ替わることで生まれる“設計上のズレ”として捉えるほうが実態に近いです。

札幌市は、公共の場所を安全に安心して通行・利用できる環境を確保するため、「札幌市客引き行為等の防止に関する条例」を定めています。(参考文献5)条例は、特定の区域内における客引き行為や、客引き行為等を行う者を同行させて誘導する行為などを規制対象として位置づけています。(参考文献5)つまり論点は「繁華街を消す」ではなく、都市の共有スペースを“通れる場所”として維持するためのルール設計です。(参考文献5)

この設計が必要になった背景として、すすきの周辺の実態調査では、客引き行為者が1時間当たり平均54.9人確認されたと整理されています。(参考文献6)数字が示しているのは、混雑や不安の要因が“例外”ではなく、一定の頻度で発生し得る状態になっているということです。(参考文献6)さらに条例ページ上では、違反行為に対して氏名等の公表に関する情報も示されており、運用が「お願い」だけで完結しない実効性の設計であることが読み取れます。(参考文献7)

一方で、すすきので生まれる齟齬は路上だけに限りません。旅行者側の前提が共有されないと、店舗の料金体系や作法が“予期せぬ出来事”として立ち上がります。たとえば日本のバー/居酒屋文化には、カバーチャージ「お通し」のように席に着くことで発生し得る費用があること、またチップ文化が一般的ではないこと等が、訪日旅行者向けに説明されています。(参考文献8)こうした「知っていれば普通、知らなければ不安」という差が、都市の印象を静かに削っていきます。

結局ここで問われているのは、観光の是非ではなく、“前提を共有する速度”です。次章では、この前提共有が追いつかないとき、なぜ「印象」だけが先に悪化して見えるのか——数字と体感のズレを、構造として整理します。

第4章:なぜ「印象」が悪化して“見える”のか ── 数字と体感のあいだのズレ

ここまでの話を、善悪に落とさず整理し直す。札幌の観光は「回復している」と言える局面がある。(参考文献2)2023年度の来札観光客数は1,454万人と示されている。(参考文献2)そして全国では、令和6年(2024年)の訪日外国人旅行者数が3,687万人に達し、過去最高を更新した。(参考文献3)数字は、流入が増える局面があることを示す。(参考文献3)

一方で、「印象」は数字で直接は測れない。印象は、案内・移動・会計・ルールの共有といった接点で更新される。だからこそ、観光が回復しても、現場の接点が追いつかない瞬間に“ざらつき”が生まれやすい。この“ざらつき”が、雪まつり期のようなピークで増幅されると、街の印象は「悪化したように見える」形で表面化する。

ズレ①:回復の波は「窓口」に集まりやすい

観光案内所における外国人利用者数は、2022年度13,293人から2023年度35,138人へ増加している。(参考文献2)ここから断定できるのは、案内・確認の需要が増える局面があるという事実だ。(参考文献2)需要が増える局面があるとき、現場では“確認コスト”が一点に寄りやすい。寄った瞬間に、待ち時間や対応負荷が体感に直結しやすい。

しかも、調整する側は無限ではない。札幌市経済観光局の観光・MICE推進部の職員数は、令和6年9月時点で合計36名とされている。(参考文献2)観光・MICE推進部の予算総額は2,185,091千円(2024年度)と明示されている。(参考文献2)この2つが示すのは、受入環境整備が「体制と予算」という有限資源で運用されているという事実だ。(参考文献2)回復が急なほど、現場の“速度差”が露出しやすくなる。

ズレ②:「稼げている」ことと「疲れない」ことは別の軸になる

札幌の総観光消費額は、2024年度で約6,941億円と示されている。(参考文献9)また、計画上の基準値として2018年度5,780億円が示されている。(参考文献1)さらに、2032年度の総観光消費額1兆円という目標が掲げられている。(参考文献1)数字は「拡大させる設計」を内包している。(参考文献1)

ただし、総観光消費額は街全体の成果を示す一方で、どの接点のズレが薄まったかまでは自動的には語らない。ここにズレが生まれる。数字が伸びても、接点の“前提未共有”が残れば、体感の疲れは先に立ちやすい。そして体感が先に疲れると、街の印象は「悪くなった」と感じられやすい。

ズレ③:ピークは「問題」を作るのではなく、「薄い均衡」を露出させる

第74回さっぽろ雪まつりの合計来場者数は2,389,000人と示されている。(参考文献2)これだけの人流が短期間に集中する局面があることは断定できる。(参考文献2)集中は、交通・導線・案内・安全確保といった都市運用の“薄い均衡”を露出させやすい。

札幌市は平成30年(2018年)に内閣府から「SDGs未来都市」として選定された。(参考文献1)持続可能性に配慮したまちづくりを進める前提が置かれている。(参考文献1)さらに、世界全体の旅行者のうち約8割が「サステナブルな旅は自身にとって重要」と捉えている旨が示されている。(参考文献1)この前提は、ピークの熱量を“消耗戦”にしないための設計が必要であることを示唆する。(参考文献1)

ズレ④:夜の街ほど「前提の未共有」が短時間で印象に変換される

すすきの周辺では、客引き行為者が1時間当たり平均54.9人と確認されている。(参考文献6)札幌市は「札幌市客引き行為等の防止に関する条例」を施行している。(参考文献5)ここから断定できるのは、安心の確保が都市課題として制度化されているという事実だ。(参考文献5)

一方で、すすきの特有の料金モデルや夜のルールの具体(注文の前提、会計ルールの詳細など)は、この場の根拠抽出では不足している。不足がある以上、ここで断定はしない。ただ、夜の街は前提が多いほど誤解の余地が増え、誤解は短時間で印象に変換されやすい。だから、印象の問題を「誰が悪いか」に落とすより先に、「前提が共有されにくい場所ほど摩擦が増幅する」という構造を置くほうが、議論としては安定する。

ここまで整理すると、「印象が悪化して見える」の正体は、誰かの性格ではなく、増える接点と有限な運用がぶつかる地点に生じる“速度差”だと言える。(参考文献2)次章では、この速度差を精神論ではなく「受け入れ設計」で回収する選択肢へ移る。

ここまでの結論は単純で、摩擦は感情論ではなく「速度差」「前提未共有」の交点で起きやすい、ということだ。(参考文献2)次章では、このズレを断罪ではなく「受け入れ設計の更新」として扱い、どこを変えれば破綻しにくくなるのかを、ソースの範囲で選択肢として並べる。

第5章:断罪ではなく「受け入れ設計」の更新へ ── 摩擦を“仕組み”で薄める

摩擦が見えてきたとき、やりがちな近道は「誰が悪い」を決めることです。でもそれは、問題の“出口”を狭くします。ここまで見てきた摩擦は、ピーク時の集中と接点増が生む「速度差」「前提未共有」の交点で立ち上がりやすい。(参考文献2)だから対策も、精神論より先に“設計の更新”として捉えるほうが実務的です。

札幌市は、観光を成長戦略として位置づけ、2032年度に総観光消費額1兆円という目標を掲げている。(参考文献1)また、海外客の総合満足度について2032年度に97.0%という目標値が示されている。(参考文献1)目標は「もっと呼ぶ」だけでなく、「来ても崩れない」受け入れ側の設計を前提にしている。(参考文献1)

では、どこを更新すれば“齟齬”を薄められるのか。ソースの範囲で、手触りのあるレバーを3つに分けて整理します。

① 前提共有を速くする:情報発信と表示の設計

回復局面では、案内の需要が増える。観光案内所の外国人利用者数は2022年度13,293人から2023年度35,138人へ増加している。(参考文献2)これは「困っている人が増えた」という断罪ではなく、確認・誘導・調整の接点が増える局面がある、という事実です。(参考文献2)

この接点増に対して、札幌市の計画ではインバウンド向けWEBサイトやSNS等による情報発信の強化が示されている。(参考文献1)さらに、観光案内所等の情報提供機能の整理・強化も掲げられている。(参考文献1)つまり、窓口に人が集中してから捌くのではなく、「来る前/移動中」に前提を配り、現場の確認コストを減らす方向に舵を切っている。(参考文献1)

加えて、案内表示の多言語化表記の統一は、前提共有の速度を上げる“地味だけど効く”施策になり得る。(参考文献10)ここは派手な打ち手ではないが、ズレが積み上がる場所ほど、表記の揺れが体感ストレスに変換されやすい。(参考文献10)

② 移動の詰まりをほどく:二次交通と決済の“摩擦”を減らす

市の計画の現状整理(SWOT等)では、二次交通に対する満足度の低さや受入環境の改善余地が課題として挙げられている。(参考文献1)ここで重要なのは、「観光客が多い=成功」ではなく、「移動のしにくさ=体感の減点」として先に印象へ反映される、という構造です。(参考文献1)

また、計画では交通機関・施設等の多言語化キャッシュレス化を含む受入環境整備が主要な取組として整理されている。(参考文献1)キャッシュレス化は“便利”の話に見えるが、実態としては会計の前提共有処理時間を短くし、接点の詰まりを薄める設計でもある。(参考文献1)ピーク時ほど、この手の秒単位の摩擦が積み上がって印象になっていく。(参考文献2)

③ 夜の街の安心を守る:公共空間のルールを“通れる形”にする

すすきの周辺では、客引き行為等を巡って条例による規制が行われている。(参考文献5)また、実態調査として客引き行為者が1時間当たり平均54.9人確認された旨が整理されている。(参考文献6)ここから言えるのは、夜の街の課題が「お願い」で解ける範囲を超え、公共空間の利用ルールとして制度化されているという事実です。(参考文献5)(参考文献6)

この領域でのポイントは、「夜を排除する」ではなく、「通行・利用の安心を維持する」ための線引きを、誰にでも理解できる形で提示することです。(参考文献5)そして、理解を速めるには多言語での前提共有が必要になる。(参考文献1)(参考文献10)夜の街ほど“初見の前提未共有”が印象に直結しやすい以上、ルールを厳しくするだけでなく、ルールを分かる形にする設計が同時に要る。(参考文献5)

ここまでの選択肢は、どれも「おもてなし」ではなく「オペレーションの設計」です。(参考文献1)そして設計は、数字で管理できる。札幌市の観光・MICE推進予算は2,185,091千円(2024年度)と示されており、整備が“資源配分”として扱われていることも確認できる。(参考文献2)熱量に街を合わせるのではなく、街の設計を熱量に合わせて更新する——その発想に切り替えられるかが分岐点になります。

次章では、こうした設計更新が「未来の札幌の解像度」をどう変えるのか。2030年度末とされる北海道新幹線札幌延伸という大きな節目に接続して、街の変化を“期待”ではなく“構造”として描いていきます。(参考文献1)

第6章:2030年度末、新幹線が変える札幌の解像度 ── 「通過点」から「滞在の街」へ

札幌の観光を“構造”として捉えるなら、2030年度末とされる北海道新幹線の札幌延伸は、単なる交通インフラの話では終わりません。(参考文献1)計画上、この延伸は都心の再開発の加速と並置されており、街の受け入れ条件そのものが更新される転換点として扱われています。(参考文献1)ここで変わるのは「来る人の数」だけではなく、「来た人が街でどう動き、どこに滞留し、何を体験として持ち帰るか」という“解像度”です。

これまで見てきたように、札幌は北海道観光のゲートウェイとして、人流と期待が集まりやすい。(参考文献1)この性質は強みである一方、回復局面では窓口負荷や前提未共有が摩擦として現れやすい。(参考文献2)延伸によってアクセスの条件が変わると、ゲートウェイとしての役割は強まる可能性がある一方で、「通過」だけでは街の体感が改善しにくい、という問題も浮き彫りになります。だからこそ計画は、量の増加ではなく“質の更新”を成果指標として持っています。

その象徴が、リピーター率満足度といった指標です。2032年度の道外客リピーター率について80.0%の目標値が示されている。(参考文献1)海外客の総合満足度についても、2032年度に97.0%という目標値が示されている。(参考文献1)これは「来てもらう」から一段進んで、「もう一度来たい/安心して楽しめた」という体感を、数字で握りにいく設計です。(参考文献1)言い換えると、延伸は“入口が広がる”出来事であると同時に、「入口が広がったあと、街がどう滞在を成立させるか」を問う出来事になります。

滞在を成立させるには、受け入れ側の容量設計が要る。計画上、2032年度の宿泊施設客室数は40,000室程度と見込まれている。(参考文献1)もちろん、客室数が増えればすべて解決するわけではありません。むしろ本質は、滞在の“総量”が増えたときに、案内・移動・会計・夜のルールといった前提共有が、どれだけ摩擦なく回るかです。(参考文献1)(参考文献2)ここが追いつかないと、回復の数字が大きいほど、体感のズレも大きく見えやすい。(参考文献2)

だから第2章〜第3章で扱った摩擦は、延伸によって「解消される」のではなく、「設計を更新できないと再発し得る」課題として残り続けます。(参考文献1)(参考文献5)(参考文献6)逆に言えば、延伸と再開発が進むタイミングは、摩擦の原因を“個別対応”で抱え込むのではなく、前提共有と導線の仕組みとして組み直す好機でもあります。(参考文献1)

次章では、こうした更新の先にある「1兆円」という目標を、単なる売上目標としてではなく、街の体感と合流させる条件として捉え直します。(参考文献1)
――目標が数字のまま走り続けるのか、それとも市民の納得と並走できるのか。最後に、その分岐点を整理します。

第7章:1兆円の先にある「好循環」の正体 ── 数字が街の体感と合流する条件

札幌の観光を語るとき、「2032年度に総観光消費額1兆円」という目標は、どうしても強い言葉として響きます。(参考文献1)ただ、この数字は“勝敗”の旗ではなく、設計の精度を問う目印に近い。なぜなら、観光は数字が伸びるほど接点が増え、接点が増えるほど、前提のズレが摩擦として露出しやすいからです。(参考文献1)(参考文献2)

ここまで見てきた「熱」と「摩擦」は、同じ現象の別の面でした。雪まつりのような短期集中は、都市の許容量を試し、(参考文献2)(参考文献4)回復局面は、玄関口の窓口負荷や調整の遅れを可視化する。(参考文献2)すすきのでは、そのズレが公共空間の不安や、ルールの非共有として先鋭化しやすい。(参考文献4)(参考文献5)つまり、観光の成長は“光”を増やすと同時に、都市運用の綻びも照らしてしまう、という構造を持っています。

だから「1兆円」を“達成”として語るなら、同時に「何が合流すれば達成と見なせるのか」を決める必要がある。計画上、海外客の満足度や道外客のリピーター率といった指標が目標として置かれているのは、(参考文献1)売上の数字だけでは街の質を測れない、という前提があるからです。観光が強くなるほど、問われるのは“気分”ではなく、前提共有の速度と、導線と、窓口と、安心の維持の仕組みです。(参考文献1)(参考文献2)(参考文献4)

ここで重要なのは、観光が市民生活と対立するかどうかではありません。対立に見える瞬間が生まれるのは、利益の帰結と、負荷の実感が、別の場所に溜まりやすいからです。(参考文献2)持続可能性を掲げるなら、ピーク時にこそ日常を壊さない設計が必要になる。(参考文献3)“受け入れの更新”が進めば、観光は外から来る熱ではなく、街の運用が成熟していることの証拠として見えるようになる。逆に更新が遅れれば、数字は伸びても印象だけが先に冷える。(参考文献1)(参考文献2)

「1兆円の先にある好循環」とは、観光の成果が、街の共有スペースの安心や移動のしやすさ、前提共有の滑らかさとして、日常に還元されて“体感”に落ちる状態です。(参考文献1)
――数字が積み上がるほど現場が静かに擦れるなら、それは成功ではなく、まだ設計が追いついていないというサインかもしれません。

あとがき

このコラムで扱ってきたのは、インバウンドそのものの是非ではなく、「熱」と「摩擦」が同時に立ち上がる構造です。札幌は、雪という制約を抱えながら都市運用を成立させ、冬の非日常を観光資源へ転換してきた街です。(参考文献1)(参考文献2)だからこそ、雪まつり期の集中は“賑わい”であると同時に、短期間だけ別の都市が重なる現象でもあります。(参考文献2)

観光の回復は、統計として言い逃れのない形で進んでいます。(参考文献2)(参考文献3)一方で、札幌が北海道観光のゲートウェイである限り、回復の恩恵と同じ速度で窓口の圧も届く。(参考文献1)(参考文献2)この圧は、すすきののような街の深部で、公共空間の安全や前提共有の遅れとして露出しやすい。(参考文献4)(参考文献5)そこに生まれる違和感は、誰か一人の悪意で説明できるものではなく、都市の共有スペースをどう維持するか、という設計の問題に寄っています。(参考文献4)

そして、2030年度末とされる北海道新幹線の札幌延伸は、こうした課題を“自然に解消する魔法”ではありません。(参考文献1)むしろ入口が広がるほど、前提共有と導線の仕組みが更新されない限り、摩擦は形を変えて再発し得る。(参考文献1)(参考文献2)だから延伸は、街の受け入れ条件を組み直す好機でもある、という位置づけになります。(参考文献1)

「2032年度に総観光消費額1兆円」という目標は、数字そのものよりも、数字が街の体感と合流できるかを問う言葉です。(参考文献1)満足度やリピーター率の目標が同時に置かれているのは、量の成長だけでは“成功”と言い切れない、という前提があるからでしょう。(参考文献1)観光が強くなるほど、必要になるのは断罪ではなく、前提共有の速度を上げるための設計です。(参考文献1)(参考文献2)(参考文献4)

この街の冬は、ただ冷たいだけではありません。都市が自然と折り合いをつけ、非日常を日常の上に載せることに成功している証拠でもある。(参考文献1)(参考文献2)だからこそ、摩擦が見えたときに必要なのは「誰が悪いか」ではなく、「どこが綻んでいるか」を見抜く視点です。
――札幌の雪が、誇りとして白くあり続けるために、私たちは設計を更新できるか。それが、このコラムが残したかった問いです。

参考文献

  1. 第2次 札幌市観光まちづくりプラン(2023–2032)/札幌市(PDF)

    https://www.city.sapporo.jp/keizai/kanko/plan/documents/2ndplan_all.pdf
  2. 令和6年度版 札幌の観光/札幌市(PDF)

    https://www.city.sapporo.jp/keizai/kanko/statistics/documents/sapporo-no-kanko-r6.pdf
  3. さっぽろ雪まつり 報道発表・開催結果等/さっぽろ雪まつり公式(PDF)

    https://www.snowfes.com/uploads/793fb6b5646114d306415a9e08d05ca4f12a69a6.pdf


    https://www.snowfes.com/uploads/b3c330cdb6f4d94da43853ab1797b0f9ab77f164.pdf
  4. 訪日外国人旅行者数・出国日本人数(統計)/国土交通省 観光庁(Web)

    https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/in_out.html
  5. 札幌市客引き行為等の防止に関する条例/札幌市(Web)

    https://www.city.sapporo.jp/shimin/chiiki-bohan/kyakuhikikouitouboushijourei/kyakuhikiboushijourei.html
  6. 客引き行為実態調査結果(仕様書別紙)/札幌市(PDF)

    https://www.city.sapporo.jp/shimin/chiiki-bohan/kyakuhikikouitouboushijourei/documents/03_01_shiyousyobessi.pdf
  7. 2024年度 札幌の観光動向に関する調査結果について/札幌市(PDF)

    https://www.city.sapporo.jp/keizai/kanko/statistics/documents/2024irikomi.pdf
  8. 訪日外客統計(ニュースリリース/統計データ)/JNTO(PDF)

    https://www.jnto.go.jp/news/_files/20260121_1615.pdf


    https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20260121_1615-1.pdf
  9. インバウンド消費動向調査(年報・報告書)/国土交通省 観光庁(PDF)

    https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001856155.pdf


    https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001884192.pdf
  10. 札幌市 一括英語表記ガイドライン(2025)/札幌市(PDF)

    https://www.city.sapporo.jp/kokusai/documents/2025_ikkatsu_eigo_hyoki_guideline_e.pdf