すすきの不動産の現場から──店が街に溶ける「噛み合う瞬間」


札幌・すすきの。
この街はいつも「光」と「影」を同時に抱えている。ネオンが強い分だけ、消えていく店も多い。新しい看板が上がったと思ったら、次の季節にはもう別の名前になっている。外から見ると派手だが、内側は淡々とした入れ替わりの連続だ。

私は不動産仲介だけではなく、テナントの管理や運営寄りの相談も受けながら、この循環をずっと見てきた。
物件を紹介して契約して終わり、ではない。店が街に馴染むまでの“現実”も、うまくいかなかった後の“余韻”も、結局こちらに戻ってくる。だからこそ、成約はゴールじゃなく、始まりに近い。

今回は、その「始まり」が妙に噛み合った話を一つ書く。

相談は2店舗目の出店から始まった

ある日、2店舗目の出店を考えている飲食店オーナーが相談に来た。
紹介できる物件はいくつかあったが、中心部にありながら少し奥まった場所に、気になるテナントがあった。内装は新しく整っている。でも短期解約が出て、再入居に苦戦している。いわくつき、と言われても仕方がない部類だ。

ところが現地に入った瞬間、空気が変わった。
立地、広さ、内装、動線、そしてオーナーが考えている店づくりのイメージ。条件が不気味なほど一致した。私は「ここは早いだろうな」と思ったし、本人も迷いがなかった。

審査から開店まで、1カ月足らずで進んだ

審査もスムーズだった。既存店の売上実績が信用になり、資金面の懸念もクリアできた。行政手続き、備品、求人。準備が一気に前へ進み、結果として1カ月足らずで開店まで持っていけた。

印象的だったのは、初動で派手に仕掛けなかったことだ。
無理に盛らない。背伸びもしない。けれど立ち上がりは自然で、まるで「最初からそこにあった店」みたいに街へ溶けていった。すすきのでは、こういう店が強い。結果として店は安定して集客し、風景の一部になっていった。

さらに半年もしないうちに、オーナーは次の相談を持ってきた。
次は狸小路エリア。当時はまだ評価が分かれていて、入れ替わりも多かった。今ほど“勝てる場所”として見られていない時期だ。それでも本人は迷わなかった。

すすきのでは、理屈では説明しきれない“巡り合わせ”が、時々起きる。
もちろん、巡り合わせだけで店は続かない。審査、資金、工事、採用、運用。現実の手順を一つずつ越えないと、ただの勢いで終わる。でも、最初の「合う」「噛み合う」という感触があると、物事が異様な速度で進むことがある。私はその瞬間を何度か見てきた。

不動産仲介は「空間を貸す仕事」ではない

不動産仲介は、空間を貸す仕事ではない。
人の決断が、街の表情を少しずつ変えていく。その決断が無理なく着地するように条件を整え、現実の壁を一つずつ越える。その積み重ねが、すすきのの“当たり前”を更新していく。

派手なニュースの裏で、街が変わる瞬間は案外こういう形をしている。