北海道随一の歓楽街・すすきので、テナント仲介・管理件数No.1を誇る「ホームエージェント」。
本コラムでは、代表の中川紀仁が、自らの目で見つめてきたこの街の“イマ”と“カコ”、そしてそこに生きる人々のリアルを語ります。
「何者か」を目指す衝動と、現実のライン
「何者かでありたい」という衝動。
その理想に近づくべく、無茶を承知で突き進む人がいれば、現実を見据えて堅実な一歩を踏み出す人もいます。
どちらが正解なのか、私にそれを説く資格はありません。
「何者になれたか」は他者の評価で決まる側面もありますが、結局は自分自身が納得できるラインがどこにあるか、ということなのだと思います。
すすきのという街には、そんな希望を背負い「何者かになろう」ともがく人々が数多く存在します。
短期間で3店舗出店。成功の裏に潜む「沼」
かつて、短期間で3店舗を立て続けに出店し、周囲から称賛を浴びた「H氏」という人物がいました。客観的に見れば、それは紛れもない「成功」でした。
しかし、世の中は広く、頂上を見上げれば切りがありません。
「もっと上へ」と挑めば挑むほど、抜け出せない経営の沼に沈んでいく。H氏もまた、その例外ではありませんでした。
当時は現代のようなSNSマーケティングが主流ではなく、人と会い、地道にコミュニティを築くスタイルが主。そんな中で、彼の組織は常に準備が後手に回り、右腕となる人材も育たない「属人化」した状態にありました。
増大する疲労とストレス。それが「日常」化してしまったとき、彼は知らず知らずのうちに深い沼へと足を踏み入れていたのです。
消えた活力、崩れていく輪郭
ある時を境に、彼の変貌は私の想像を絶するものとなりました。
経営に一直線だったあの鋭さや活力は消え失せ、まるで病弱な少年のように。
燃え尽きたのか、あるいは安定した収入による油断なのか。その時の私には、彼の内面で何が起きているのか分かりませんでした。
異変が決定的になったのは、数日後のこと。
2店舗目の従業員から「H氏が店内で喧嘩をした」と連絡が入りました。
話を聞けば、彼は重度の不眠症に陥り、処方薬をお酒で流し込むような荒んだ生活を送っていたのです。若くして背負った重圧。周囲の人間が必死に彼を止めようとしたのは言うまでもありません。
破滅か、それとも再生か
「何者かになりたい」と願う姿は、時に世間が抱く成功者のイメージとは逆の方向を向いてしまうことがあります。
しかし、もしその破滅の先に「再生」という物語があるのだとしたら。
彼がいま、その先に見据えているものは果たして何なのか。
破滅か、再生か。
すすきのの夜は、今日もまた誰かの人生を飲み込み、そして照らし続けています。
[プロフィール]
中川 紀仁(なかがわ のりひと)
株式会社ホームエージェント 代表取締役社長。東京都立川市出身。アパレル、訪問販売、ナイトレジャー、大手音響メーカーを経て、2015年に不動産業で独立。現在はビル管理や飲食事業も手掛ける。
華やかに見える街ほど、表に出ない重圧があります。
このコラムが突いているのは、成功そのものではなく、成功を支えきれなかった人間の脆さです。
すすきのという街のリアルは、きらびやかさではなく、その裏側にある無理、焦り、孤独にこそ表れます。





