札幌市が、冬でも歩きやすく、立ち寄りやすい都心の道路空間を考える新たな検討を進めています。2026年10月7日、市は「令和8年度居心地が良く歩きたくなる都心まちづくりに係る検討業務」の企画競争で、一般社団法人アーバンデザインセンター大宮を契約候補者に選定しました。選定結果は10月14日更新の札幌市公式ページで公表されています。
今回決まったのは、街路の将来像を検討する業務の契約候補者です。道路の工事区間や着工日、交通規制、歩行者専用化が決まったという発表ではありません。札幌駅、大通、すすきのを行き来する市民や観光客にとって、どのような変化を目指す計画なのか。現時点で分かっている範囲を、市の計画と過去の社会実験に照らして見ていきます。
10月7日に契約候補者を選定、道路改修の決定ではない
業務の正式名称は「令和8年度居心地が良く歩きたくなる都心まちづくりに係る検討業務」です。実施主体は札幌市で、担当窓口はまちづくり政策局都心まちづくり推進室都心まちづくり課。市が公開した企画競争選定結果調書では、3者から企画提案を受け、6人の評価委員が採点したことが示されています。
最高評価を得た一般社団法人アーバンデザインセンター大宮は600点満点中467点で、最低評価基準の360点を上回りました。残る2者の評価点は445点と398点です。この数字が示すのは委託先を選ぶための評価結果であって、「歩きやすさが467点に改善する」といったまちづくりの成果ではありません。
札幌市の企画競争の公式発表には、検討の目的として、道路と沿道を一体で捉え、街を歩いて巡る「回遊性」と、その場所で時間を過ごす「滞在性」を高めることが書かれています。道路を通過するための空間としてだけではなく、沿道の建物や周辺の活動との関係も考える方針です。
募集はすでに終了しています。公開資料にある10月1日は企画提案書の提出期限、10月7日は審査・選定の日付であり、どちらも市民向け施設の利用開始日ではありません。現時点で、新しい道路の完成日として読み替えられる日付は公表されていません。
出発点は2026年3月の「第3次都心まちづくり計画」
今回の検討は、単独で突然始まった街路整備ではありません。札幌市は2026年3月、「第3次都心まちづくり計画」を策定しました。従来は2016年策定の「第2次都心まちづくり計画」と、2018年策定の「都心エネルギーマスタープラン」を別々の指針として扱っていましたが、社会情勢や環境問題の変化を踏まえ、両者を統合しています。
新しい計画では、特に力を入れる三つの目標のうちの一つとして、「冬でも、誰でも、まち巡りが楽しい都心」を掲げました。春から秋だけ快適な歩行環境ではなく、雪のある季節にも出歩きやすいことを、まちづくりの中心的な課題に据えています。
計画は、おおむね20年後を見据えた方向性を示すものです。20年後にすべての道路が同じ形になるという意味ではなく、社会経済情勢や関連計画の変化を踏まえて方向性を見直すことも想定しています。この長期計画と、2026年度に行う個別の検討業務は、時間軸を分けて読む必要があります。
市の第3次都心まちづくり計画の案内には本書と概要版が掲載されています。どこに重点を置くか、なぜ歩行者だけでなく交通や建物の使い方まで考えるのかを知るには、概要版の「目標2」の部分が出発点になります。
対象は札幌駅・大通・すすきのを含む都心部
第3次計画の対象区域は、JR札幌駅北口一帯、大通と東8丁目・篠路通の交差点付近、中島公園の北端付近、大通公園西端付近を頂点とする、ほぼひし形の区域です。概要版では南北と東西がおよそ2.5キロメートルの広がりとして図示されています。
この範囲には、札幌駅周辺のオフィス街、大通の商業・業務エリア、すすきのの飲食店街につながる通りが含まれます。通勤で駅から職場へ向かう人も、買い物をしながら複数の店に立ち寄る人も、夜にすすきのへ出かける人も関わる範囲です。
ただし、計画対象区域のすべてが今回の工事対象になるわけではありません。計画には回遊を促す「主要回遊エリア」と、通りごとの機能を検討する「主要検討路線」などが示されています。一方、10月14日の契約候補者選定のお知らせは、実際に変更する道路名、何メートルを改修するか、どの交差点で通行方法を変えるかまでは発表していません。
そのため、「札幌駅前通が歩行者専用になる」「すすきのの車道が減る」といった具体的な変更を、現段階の決定事項として受け取ることはできません。市が今後示す個別路線の資料と、全体のまちづくり構想に描かれた路線とは分けて確認する必要があります。
歩くだけでなく「立ち寄れる通り」をどうつくるか
札幌市の計画概要版では、格子状に延びる都心の街路が単調な移動経路になりがちなことを課題として挙げています。そこで、通りごとの特徴を高め、思わず別の道へ曲がりたくなるような街路の形成を目指します。「道幅を広げれば完成」という話ではなく、どのような目的で歩き、どこで休み、何を見ながら移動するかも検討対象です。
目標2には、格子状の街路の特徴を生かしたストリートの魅力向上、街路と沿道が一体となった空間づくり、見通しの良さを生かした景観形成が挙げられています。沿道の店舗や建物の低層階がどう使われるかによって、同じ幅の歩道でも街の使われ方が異なるという視点です。
例えば、通り抜けるだけの道と、立ち止まって休める場所や別の目的地へ向かいやすい接続がある道とでは、必要な空間の使い方が変わります。これは計画の考え方を読み解いた例であり、特定の場所にベンチや休憩所を新設すると決まったという意味ではありません。
市は、季節や天候、訪れる目的によって歩く道を選べる環境を重視しています。買い物、通勤、通院、観光など、利用目的が違っても無理なく移動できることは、歩道そのものの整備と同じくらい重要な検討の観点になります。
冬の歩きやすさは、屋外だけで完結しない
札幌の中心部にはすでに、冬の移動を支える地下の歩行空間があります。札幌駅前通地下歩行空間「チ・カ・ホ」は2011年3月12日に開通し、札幌駅周辺から大通方面へ続く地下歩行ネットワークの一部として利用されています。札幌市は地下の歩行空間を、季節や天候に左右されにくい移動手段として位置付けています。
新計画の目標2も、屋外の通りと地下の空間を別々に考えていません。市は「四季を通じて快適に移動できる環境の充実」として、安全で円滑な歩行動線、交通結節点と都心内の移動手段の接続、公共交通の待合・休憩環境などを掲げています。
ここで重要なのは、地下に入れば移動の問題がすべて解決するわけではないという点です。最終的には地下出入口から地上へ出て、店舗や目的地に向かう場面があります。屋内・地下・地上のつながりをどうするかは、冬の移動のしやすさを考える際の一つの論点です。
また、計画には雪を札幌の特色として生かした冬季の公共空間利用も盛り込まれています。屋外に人が滞在できる場所をどうつくるか、どの季節にどのような使い方が適するかを考える方向性です。ただし、今回の契約候補者選定をもって、特定道路のロードヒーティング新設、除雪方式の変更、屋根付き通路の建設が決定したわけではありません。
車・荷さばき・自転車との両立も課題
歩く人のためのスペースを考える際、同じ道路を使う車や自転車、店舗への搬入車両を無視することはできません。札幌市の計画では、通りの魅力を高める方針とともに、都市に必要な交通機能とアクセス環境を確保することを掲げています。
具体的には、路線ごとに必要な交通機能を配置すること、都心を目的としない通過交通への対応、荷さばきや人の乗り降りのための空間確保、駐車場配置の適正化などです。歩行者のための空間を増やしても、周辺の道で配送車が停められなくなったり、乗降場所が分かりにくくなったりすれば、別の支障が生じる可能性があります。
この課題に関しては、過去の社会実験が参考になります。札幌都心交通研究会が2024年に行った実験では、さっぽろシャワー通りで歩行者の滞在空間をつくり、南1条西2・3丁目の中通り、通称「123歩通り」では荷さばきの方法や歩行空間を試しました。
北海道開発局札幌開発建設部が2025年2月6日に公表した結果では、さっぽろシャワー通りの実験区間を利用した回答者の97%が居心地について高く評価し、123歩通りでは荷さばき車両1台当たりの駐停車時間が平均11分短くなったとされています。社会実験結果の公表資料で確認できます。
これは2024年の限定された区間・期間で行われた実験の結果です。2026年度の新しい検討業務で同じ方法が採用される、すべての通りで同じ効果が出る、という証明ではありません。一方で、歩行空間と荷さばき空間を時間帯などによって使い分けるという考え方が、札幌の都心ですでに試された実例であることは分かります。
市民、観光客、沿道店舗にどんな関係があるか
歩く人:移動の連続性と休める場所
歩く人にとっての論点は、一部の道路だけ見栄えが良くなるかどうかではありません。交通機関を降りてから目的地に着くまでの道の分かりやすさ、交差点の渡りやすさ、悪天候時の移動、途中で休める環境がつながっているかどうかです。これらは計画が掲げる安全・円滑な歩行動線や滞在空間の充実と関係する項目です。
ベビーカーや車いすを使う人、荷物を持つ観光客、高齢者にとっては、段差や混雑、雪のある場所をどう通るかも移動の判断に関わります。ただし、個々の交差点で段差解消工事を行うことや、新しいエレベーターを設けることは、今回の選定結果から確認できる決定事項ではありません。
沿道店舗:人通りだけでなく搬入・乗降にも関係
店舗や事業者は、人が歩いて立ち寄りやすい環境と、営業に必要なアクセスの両方を考える必要があります。飲食店や小売店では納品、廃棄物の収集、従業員の通勤などが日々発生します。道路空間の利用方法を変えるなら、歩行者の居場所だけでなく、車両を停める場所と時間の整理も重要です。
すすきのでは夜間に訪れる人や飲食・宿泊の利用者もいるため、昼間の買い物だけを前提にした道路の使い方では十分とは限りません。この点は地域の利用実態から考えられる検討上の論点であり、すすきので夜間交通規制を実施するという発表ではありません。
計画が掲げる数値目標は「今回の工事の完成目標」ではない
第3次都心まちづくり計画の概要版には、目標2に関する成果指標として二つの数値が示されています。一つは主要地点の歩行者交通量の平均値で、2024年度の1日1万8,800人から、2044年度に1日2万500人を目指すというものです。
もう一つは「まち歩きが楽しめる通りや場所が多い」と評価する人の割合です。2024年度の60.6%を、2044年度には70.0%にする目標が設定されています。この割合は市の評価指標であり、現時点の満足度が70%に達したことを示す数字ではありません。
歩いている人が増えることと、歩いていて心地よいと感じることは同じではありません。交通量だけで評価すると、単に人が通過しているだけでも数字が上がる場合があります。札幌市が移動量と評価の双方を掲げている点は、道路の使われ方を考える上で重要です。ただし、2044年度の数値は長期計画全体の目標で、10月7日に選ばれた事業者へ直接課された今年度の達成値ではありません。
いつ変わる? 2026年10月24日時点の進行状況
これまでの主な経緯を日付で並べると、2026年1月9日から2月9日に第3次都心まちづくり計画案へのパブリックコメントが実施され、同年3月に計画が策定されました。その後、今回の検討業務について企画提案を募集し、10月1日に提出を締め切り、10月7日に審査・契約候補者の選定、10月14日にその結果を掲載しています。
今後の具体的な道路の姿、設計案、工事の可否や順序は、検討を経て示される内容です。検討対象の路線についても、全体計画の掲載図と、個別事業として正式に決まった整備区間を混同しないことが必要です。2026年11月から新たな通行ルールが始まるという公表は、今回確認した選定結果にはありません。
道路の利用方法を変える場合には、歩く人の安全と、公共交通・物流・沿道の営業への影響を同時に考える必要があります。これは実施時期を早めるための小さな調整ではなく、案を検討する段階で外せない条件です。現状で完成日や予算額を推定する材料にはできません。
今回の公表は、通行者を対象にした申請受付や有料サービスの開始案内ではありません。市民が今すぐ申し込む制度や、歩行のために新たな料金を支払う仕組みは、この業務の選定結果には記載されていません。将来、街路の利用方法にルールが設けられる場合でも、その内容は別途発表される個別の案内で確認する必要があります。
「Well-Moving City SAPPORO 2045」との違い
札幌市は2026年3月、別の政策文書として「Well-Moving City SAPPORO 2045 ビジョン」も策定しています。これは都心に限らず、地域交流拠点や住宅市街地も含めて、居心地が良く歩きたくなるまちづくりの方向を示すものです。
一方、今回の「居心地が良く歩きたくなる都心まちづくりに係る検討業務」は、都心の街路や沿道、交通環境の具体的な検討を扱います。名前は似ていますが、市全体の長期ビジョンと、都心の個別業務を同じ一件の工事として扱うことはできません。市全体の考え方は札幌市のウォーカブルシティ推進ページに掲載されています。
市民が確かめたいのは、選定結果の「次」に出る資料
今回のニュースで確定しているのは、札幌市が策定済みの都心計画を受け、道路と沿道の将来像に関する検討を進め、その企画競争で契約候補者を選んだことです。新しい歩道や歩行者専用道路が完成したというニュースではありません。
今後は、どの路線を対象にするのか、冬季の歩きやすさをどのような方法で確保するのか、荷さばきやバス・自転車の通行とどう両立させるのかが、生活への影響を判断する材料になります。実施案や市民参加の機会が公表される場合は、その案の対象範囲と決定状況を確認することが重要です。
最新情報の確認先は、札幌市の今回の業務に関する公式ページと第3次都心まちづくり計画のページです。問い合わせは札幌市まちづくり政策局都心まちづくり推進室都心まちづくり課(電話011-211-2692)。札幌駅から大通、すすきのを日常的に歩く人も、都心で事業を営む人も、まずは「将来の構想」と「正式に決まった交通上の変更」を分けて受け止めることが大切です。
札幌市が目指すのは、単に歩道を広げることではなく、冬の移動、立ち寄りやすさ、車両による搬入などを含めた都心の道路空間の見直しです。
すすきのの店舗にとっても、将来的な歩行環境の改善と営業に必要な交通機能をどう両立するかが重要な論点になります。





